昨年度のディズニー関連の話題と言えば、ウォルト・ディズニー・ワールドの開園50周年記念イベント。様々なメディアでも報じられてきた一大イベント。また、今年は、東京ディズニーリゾート(R)が40周年を迎え、こちらも40周年記念イベントが行われています。
もともと、ディズニーのテーマパークでは、節目となる周年にはイベントを行うのが常となっていますが、半世紀という大きな節目であるウォルト・ディズニー・ワールドでは、さらに大きなイベントが開催されました。
今回は、こちらのイベントのご紹介ではなく、ウォルト・ディズニー・ワールドの50周年を記念して発行された、50年間の歴史を振り返る書籍のご紹介です。
今年4月に日本語版が発売された書籍『ウォルト・ディズニー・ワールドの肖像 魔法の国の50年』(原題:A PORTRAIT OF Walt Disney World)の読後レビューをお伝えしたいと思います。
まるで辞典、全320ページの重さと7,150円の価値について考えます
出だしから、値段の話で恐縮ですが、誰しもがこの本を手にとって感じるのは、おそらく本の分厚さ、重さ、そして値段だと思います。
ずっしりと重い塊感、一昔前の辞典のような分厚さ、そしてそれに負けない価格。とても持ち運んで、気軽に読むのには適していない本。
いまどき320ページの本というのは、なかなかお目にかかることもなく、そして7,150円(税込)という価格を見たとき、果たして、その価値があるのかと、誰もが思う最初の感想なのではないでしょうか。
冒険の旅の始まりは1884年のフロリダへ飛びます
本を読み始めると、いきなり時代は1884年の秋に飛びます。50年の歴史どころか、140年前の話です。そこに映された写真は、まるでデイズニーランドの蒸気船マークトウェイン号か、ディズニーランド鉄道か、そのままの景色が現実の写真として載っています。
1800年代の半ばには、鉄道や蒸気船が発達し、フロリダ中央部へのアクセスが向上したそうで、ここに書かれている話は、まさに、ディズニーランドのアトラクションに出てくる、入植者たちの話そのものです。
フロリダの「サンシャイン・ステート」に入植者として降り立ったのは、ウォルト・ディズニーではなく、祖父や祖母、そしてその子供たち、すなわちウォルト・ディズニーの両親、フローラやイライアス・ディズニーでした。
当時から、フロリダの過ごしやすい気候、豊かな森や湧き水、紺碧の青空と美しい眺めは、入植者たちを魅了し、この地を約束の地とすることを決めたようです。
その後、フローラやイライアス・ディズニーは事業に失敗し、一家はこの地を離れ、シカゴへ移り住むことになります。ウォルト・ディズニーが生まれた1901年には、一家はシカゴに居たので、ウォルトはフロリダの原体験はなかったはずです。
しかし、一家が生活した「サンシャイン・ステート」のわずか80キロメートル南に、80年後「ウォルト・ディズニー・ワールド」ができることになるとは、フロリダとウォルト・ディズニーとの不思議な縁を感じる一節です。
ウォルト・ディズニー・ワールドはウォルト・ディズニーが作った訳では無いという話
時代は飛び、1966年の秋の話にしようと思います。ウォルト・ディズニーがカルフォルニアのアナハイムにディズニーランドを作った話や、ウォルトがアナハイムの環境に満足できなかった話は有名で、ディズニーが好きな人には知られている話です。
実際、この書籍では、この辺の話は省略されていて、ウォルト・ディズニー・ワールド構想が始まったあたりへ時代は飛んでいます。
1966年の秋、ウォルト・ディズニーは、ウォルト・ディズニー・ワールド(当時はフロリダ・プロジェクトと呼ばれていた)の計画を発表するのですが、その直後、わずか6週間後の1966年12月15日に、ウォルトは永眠するのです。
残されたメンバーの失望を考えると、現在、ウォルト・ディズニー・ワールドが存在して、50周年を迎える事ができたのが、奇跡にも思えます。
つまり、この書籍は、ウォルト・ディズニーの自伝ではなく、彼の遺志を引き継いで、ウォルト・ディズニー・ワールドを実現に導いた人々の記録にほかなりません。
1971年10月25日、ウォルト・ディズニー・ワールドのグランドオープニング竣工セレモニーの際、ウォルト・ディズニーの夢を実現した中心人物である、ロイ・O・ディズニーの傍らに立ったのは、ミッキーマウス、まさに彼の化身がセレモニーを見守っていた事が読み取れる一節です。
エプコットこそウォルト・ディズニー・ワールドのテーマではないのでしょうか
この本では、ウォルト・ディズニーが抱いた「フロリダ・プロジェクト」について詳しく説明されています。初期の構想で見れるのは、「The Experimental Prototype Community of Tomorrow」未来的実験都市、すなわち「EPCOT」エプコットが中心となる計画図です。
未来的実験都市がいかなるものなのかは、この本に詳細に説明されているのですが、ウォルト・ディズニーがフロリダの地に作りたかったのは、テーマパークではなく、未来都市、すなわち街そのものだったのです。
この実験的未来都市を軸に、モノレールがエントランスとアミューズメントテーマパーク、すなわち現在の「マジックキングダム」を結ぶ姿がすでに現れているのは興味深いところです。
現在でも、もっともウォルト・ディズニー・ワールドを表現するパークは「EPCOT」エプコットであると考えます。
そのエプコットの入り口にそびえるのが「スペースシップ・アース」というアトラクション。人類の登場から人類の未来へと数万年にもおよぶ時間旅行を体験し、最後に、地球という宇宙船に乗り込む我々人類を俯瞰することができるのです。
人類への讃歌、そして未来への希望、これがエプコットいや、ウォルト・ディズニー・ワールド全体を貫くテーマにも通じていると考えられます。
ウォルト・ディズニー・ワールドが、他のテーマパーク、例えばカルフォルニアのディズニーランドと決定的に異なるのは、この点だと気付かされます。
「スペースシップ・アース」の建設現場の写真が掲載されていますが、これを見るだけでも、ウォルトが作りたかった、未来の都市を商業的に実現させるため、どれだけのスタッフが動いたかを実感せざるを得ません。
各パークの細かな記述にも大きな価値を感じます
この本は、この後、各テーマパークの実現への道筋や、テーマパークを彩るアトラクションのテーマ、そして実現について、こと細かに記述されています。
一つ一つが、テーマパークやアトラクションに関する、コンセプトや、制作の過程、こだわりに満ちていて、高密度な情報があふれいてます。
建築中の写真や、アトラクションの内部、今はない初期のアトラクション、どれも興味をそそる話題ばかりで、むしろ、よくこのページ数に収めていると感心するほどです。
例えば、マジックキングダムのシンボルである、シンデレラ城の内部に、宿泊用の部屋が存在することをご存知でしょうか。どのようなこだわりで作り、なぜ、ここに宿泊用の施設が必要だったのでしょうか。
同じく、マジックキングダムの「ミッキーマウス・レビュー」は、公演終了後に解体されて、東京ディズニーランド(R)の「ミッキーマウス・レビュー」として日本の人々を楽しませて来たことをご存知でしょうか。
この本では、さらに、ウォルト・ディズニー・ワールドの深淵に向かいます。都市伝説ともなっている、ディズニーランドの地下には、地下都市がある、という話への解答も載っています。
しかし、そこに記載されているのは、興味本位な好奇心をそそられる内容ではありません。ここまで読み進めた人がおそらく感じる、ウォルトの実験的未来都市を実現するための、必然的な施設としての説明だからです。
なぜ、地下に施設が必要なのか、どういう施設がどのように必要なのか、ウォルト・ディズニー・ワールドのテーマを貫く、根本に関わる理解が得られるのではないでしょうか。
書籍『ウォルト・ディズニー・ワールドの肖像 魔法の国の50年』はウォルトとその仲間たちと巡る、長い冒険の旅です
この本の最後には、ウォルト・ディズニー・ワールドの50周年イベントの紹介記事で締められるのですが、むしろ、そのページ数はあまり多くありません。
この本は、50周年というイベントを紹介する、ガイド本の類とは全く異なるものです。まして、各アトラクションの楽しみ方を書いた旅行ガイドでもありません。しかしこの本は、まぎれもなく旅の本であると思います。
読み進むたび、ウォルト・ディズニーの遺志をついだ仲間たちが、読者達を50年間のウォルト・ディズニー・ワールド建国のタイムトラベルに連れて行ってくれるような本です。
夢の実現のために、どうやって一つ一つのテーマパークやホテルを作ったか、ともにウォルト・ディズニー・ワールドを作り上げていった仲間達が、その歴史を語りかけるような本です。
読み進めれば、むしろ、各説明は320ページという制限のために、端的に述べられているような印象も受けます。
おそらく興味を持った点については、さらに情報を集め、調べ知りたくなる事だと思います。よくこの長い物語をこのページ数に収めた、とまで思えます。
物語の終盤には、ディズニーマジックについて書かれています。パークへ遊びに行くことは、人生のなかでは、一瞬のきらめきに過ぎないかもしれません。しかし、そのきらめきは、パークを去った後、人生のなかで、より一層大きな輝きとなって光り続けるものなのではないでしょうか。
この本を読み終えたときの満足感も、それに通じるものがあります。320ページの冒険旅行を終えた読者は、おそらく、その続編を人生の中で探し始めると思います。
ある人は、シンプルにウォルト・ディズニー・ワールド自体に興味を持ち、さらに詳しく調べるでしょうし、また、ある人は現実にウォルト・ディズニー・ワールドを訪れる為の計画を立て始めることでしょう。また、ある人はこの本で体験した、未来への希望を自身の人生に照らし合わせてみるかもしれません。
この密度の濃い長い旅のような体験、そして読み終えた後も輝きを失わない体験を得るための代償にいくらを払うのが妥当なのでしょうか。
最初に感じた疑問、この本の320ページというボリュームについては、むしろもっと読みたい、もっと知りたいと言う意欲に変わり、またこの価格、7,150円は高かった、と思う人は皆無であると思います。
最後に、『A PORTRAIT OF Walt Disney World』(ケヴィン・カーン/ティム・オデイ/スティーヴン・ヴァグニーニ 原著)が、日本語版で読める幸運を出版社である翔泳社と、翻訳者である浅野美抄子氏に感謝せざるを得ません。
『ウォルト・ディズニー・ワールドの肖像 魔法の国の50年』は、単純にディズニーが好きな人、ディズニーに興味がある人にとって必読の書です、としか言いようがありません。
『ウォルト・ディズニー・ワールドの肖像 魔法の国の50年』の書籍情報
『ウォルト・ディズニー・ワールドの肖像 魔法の国の50年』
原著:ケヴィン・カーン/ティム・オデイ/スティーヴン・ヴァグニーニ
翻訳:浅野 美抄子
発売日:2023年04月13日
定価:7,150円(本体6,500円+税10%)
判型:A4変・320ページ
(C) 2023 Disney Enterprises,Inc.
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